リソグラフィー
ページ目次本ラボで使用している手法は,主に半導体工業で開発されてきたものですが,リソグラフィー(Lithography)は,版画の手法から来た言葉であると思われます. 実際,版画のように,原版を用意して試料に転写することが,リソグラフィーの基本です.
この「原版」ですが,半導体工業では通常レジスト (Resist) と呼ばれる物質(多くは高分子膜)を加工物質や基板の上に塗布したものを使います.
フォトリソグラフィー
感光性のレジストにパターン化された光を照射し,現像液により照射部を溶解させたり(ポジ型レジスト),非照射部を溶解させる(ネガ型レジスト)などの方法でパターンを形成します.
この「パターン化された光」を作る方法ですが,フォトマスクを使用する方法と,そうでないものに大別できます. フォトマスクはガラス板にクローム薄膜で遮光を施したものが良く使用されますが,感光塗料を黒化させて作ったり,様々です. フォトマスクのパターンは,次に述べる電子線描画やフィルムの投影,マスクレスフォトリソグラフィーなど,様々な方法で作られます. マスクからの投影も,ごく一般的には加工面に密着させる密着法ですが,様々な光学系を使用した縮小投影,高屈折率の液体への液浸による光の短波長化などこれも様々な方法によって微細化が図られます.
マスクを使用する方法の大きな利点は,ウェハー全体を一気に露光させることができ,スループットが大変大きいことです.また,光源に様々なものを選べる点も利点で,半導体工業の主流です.
これに対して,マスクを使わないマスクレス法では,照射の際に光をブロックする以外の方法で光線をパターン化します.1つの方法は,細く絞ったレーザービームで描いていくものです.もう1つの方法は,プロジェクターなどに使われるDLP (Digital Light Processor)を使うものです.DLPはDMD(Digital Micromirror Device)とも呼ばれ,敷き詰められた多数のアルミニウムの微小なミラーが独立に動作して,光を照射方向(ON),そうでない方向(OFF)に反射することで,パターンを形成します(各可動ミラーをDMDと呼ぶ場合もある).光源としてはLEDを用いることがほとんどです. どちらの方法でも,ビームやDLPの大きな出力パターンを大きな縮小率で縮小する必要があり,その光学系は顕微鏡と同じです. 従って,同じ光学系を使って露光前の試料観察も可能です.
マスクレス法は,パターンを頻繁に変更したり,更には不定形の試料に微細電極を形成したりする際には大変有利になります. 簡易マスクレス描画装置が販売されるようになったこともあり,物性研究においてはマスクレス法がよく使用されるようになってきました.
電子線リソグラフィー
「電子線描画」 (electron beam drawing)とも呼ばれるように,フォトリソグラフィーの光に代えて加速した電子ビームをレジストに照射し,照射部のレジストを変質させて現像液で照射部溶解(ポジ型),あるいは非照射部溶解(ネガ型)によってパターン形成します.電子線描画装置は,簡単にEBという略語で良く呼ばれます. 走査型電子顕微鏡 (scanning electron microscope, SEM) で,視野を一様にスキャンするのではなく,パターンに合わせてスキャンするもの,として,ほぼ正しい表現です.従って,SEMに外部回路を付けてEBとして使用している例もあります. が,100 nmを切るような微細なパターンを正確に描画するためには,安定度の高い専用マシンがどうしても必要です.